スズメバチ焼酎(クマバチ酒)とは
スズメバチ焼酎(クマバチ酒)とは、熊本県の山都町などの一部地域で伝統的に飲まれる薬膳酒。ホワイトリカーなどの度数が高い甲類焼酎にスズメバチがたっぷり入っています。
山都町ではスズメバチはクマバチと呼ばれ、貴重なタンパク源として食材としても親しまれてきました。たとえばスズメバチの幼虫は「ハチノコ(蜂の子)」として炊き込みご飯の具にされたり醤油焼きにされたりして食べられています。
なかでもこのスズメバチ焼酎は、私の知る限り最もエキサイティングな調理法です。地元でスズメバチ焼酎を作ってらっしゃる方に詳しい作り方を伺ったので、ここに記録しておくことにしました。
スズメバチ焼酎(クマバチ酒)の作り方
スズメバチ焼酎の作り方は簡単です。
まず、スズメバチの巣を見つけます。網などで囲った状態で巣を取り外します。
成虫のみを大きめの瓶に移し替えます。(幼虫は炊き込みご飯の具にでもしちゃいましょう)
次に、ホワイトリカー※などの度数高めの甲類焼酎を瓶になみなみと流し込みます。
ここでポイントなのが、必ずスズメバチが生きたままの状態で焼酎を入れることです。
なぜなら、生きたまま焼酎漬けにすることで、スズメバチが大量の毒を焼酎中に噴射するからです。
毒をありがたがって飲む部類の酒なので、毒を出してもらわなければ本末転倒ですから、ここには注意しましょう。
あとはスズメバチの色が移って瓶全体が茶色になるまで熟成させれば完成です。
ちなみにこの作り手さんは、「〇〇(近くの村)で売ってるスズメバチ焼酎は、瓶にスズメバチを二匹入れているだけで、焼酎自体は透明のまま。あんなものをスズメバチ焼酎と言って売りつけるなんてけしからん!」と嘆くくらいに徹底してる方なので、別の作り方があるのかもしれません。
※甲類焼酎が出たのは、連続式蒸留機やイオン交換法による高純度精製によるものですから、昔はホワイトリカーではなく焼酎で作っていたと思われます。
なかでも、どぶろくやその粕を蒸留して作った手製の焼酎のうち、特に度数が高い「ハナタレ(蒸留してすぐの「しょっぱな」に垂れる焼酎を詰めたもの)」などを利用して作っていたのではないでしょうか。
スズメバチ焼酎(クマバチ酒)の効能
毒入りの成虫を使うどころかその毒をありがたがって飲むという、エキサイティングな酒だけあって、効果もありそうです。
スズメバチ焼酎の作り手のおじさんに聞いたところ、「疲れた時にひとくち飲んで寝ると、抜群に元気になる」とのこと。
科学的根拠はハッキリしませんが、ネットで調べてみたところ、スズメバチの毒には他種類の必須アミノ酸が含まれているため、疲労回復に役立つということのようです。
毒なのに大丈夫なのか?ということについては、少量を胃壁から吸収する程度では毒としては機能しないという意見がありました。
まあ、何代も前から受け継がれた飲酒文化ですから、それなりに安全なのではないでしょうか。少なくとも飲んで即死といったことは少なかったのではと思います。
ちなみに、このスズメバチ焼酎をお作りになってるかたは、マムシ酒も作ってらっしゃいますので、今度はそちらも伺ってみたいものです。
親しみやすいところでは、西洋グミ漬けの焼酎、センブリ漬けの焼酎なども作ってらっしゃいます。(こちらは別途記事にしたいと思っています。)
スズメバチ焼酎(クマバチ酒)の味
正直、おいしくはないです。
ヒシャクで掬う際には水面にスズメバチの触角や脚と思われるものが浮いておりかなりショッキングな気持ちになりますが、陶器のおちょこに注ぐと、ウイスキーのように鮮やかに輝きます。
香りは、形容しがたいのですが、純粋なアルコールに草くささ、土くささ、もっというと「虫くささ」がします。
カブトムシやクワガタを飼ったことがある人なら一度は嗅いだことがあるであろう臭いです。
味は希釈された焼酎に、水っぽさ、ほんのりとした苦味、そして虫臭さが漂います。
嗜好品として楽しむにはハードルが高いけど、薬と思えば飲めるといった具合です。
スズメバチ焼酎(クマバチ酒)の総評
味は上述の通りですが、効能については、さまざまな酒を一気呵成に飲み継いだので、私自身の経験からはなんとも言えないのが正直なところです。
しかし熊本の酒文化、食文化を知る上では非常に有意義なお酒であることには間違いありません。
どこでも気軽に飲める酒ではありませんが、気になる方は是非チャレンジしてみてはいかがでしょうか。