『滅びし獣たちの海 THE SEA OF FALLEN BEASTS 』について
概要
日本を代表するSF漫画家のひとり星野之宣によるSF短篇集。一部作品を除き、海に関する話。
江戸時代や、戦中、戦後冷戦時代、そして宇宙旅行時代など、さまざまな時代が描かれています。
収録作品
- レッド・ツェッペリン[前編]
- レッド・ツェッペリン[後編]
- 鯨鬼伝
- 罪の島
- 滅びし獣たちの海[前編]
- 滅びし獣たちの海[後編]
- アウトバースト
- 環礁にて
レッド・ツェッペリン
アメリカとソ連の冷戦時代を描いたお話。宇宙開拓競争でソ連に先を越され、アメリカは焦っていた時代。
アメリカが考えたのは、北極に原子力潜水艦を配置できることを示すこと。北極さえ掌握できれば、ソ連の主要都市にミサイルをいつでも打ち込めるからです。
「ポラリス計画」と名付けられたこの作戦。ドイツを逃れた科学者たちが作った原子力潜水艦を駆り、東西陣営が北極で接触します。
余談ですが、この作品の主人公が飲んでいるウイスキーは、
- 四角いビン
- 斜めのラベル
から察するに、ジョニー・ウォーカーの様子。ブラックラベルかな?
鯨鬼伝
1841年ころの肥前(佐賀県のあたり)のお話。
鯨漁を生業とするキリシタンの村に、西洋人のバテレン(宣教師)が流れつく。
本来は役所に届け出なければならないのですが、宗教を同じくするため、村人は匿うことに。
村人達が洞窟の中でマリア像にお祈りをしていると、牢を破り出たバテレンが乱入し、英語で聖書を語り始め、村人から受け入れられます。
ある日、巨大な鯨の潮吹きを発見しバテレンと共に漁に出ると、それはアルビノ(白子症)の鯨。
バテレンはその鯨を「サタン」と呼び、村人たちは「さたん」を退治すべく躍起になって鯨を仕留めにかかります。
宗教と鯨漁の熱気がうまく表現された作品でした。
罪の島
乱獲によって絶滅したステラー海牛にまつわるお話。
船が座礁してたどり着いた島では、打ち捨てられた謎の施設があった。
生き延びるべく食料を探していると、謎の海生生物が襲いかかってきて・・・。
論語の「君子は釣りを、するのに網を用いて一網打尽にすることはしない。生活に必要なものを得るためには釣り針で十分である」といった故事を思い出すお話でした。
滅びし獣たちの海
第二次世界大戦中の戦艦と潜水艦、そして恐竜伝説が交差するお話。
1941年、ドイツの戦艦ビスマルクは敵の航空機から発せられる魚雷で沈没寸前。
新造の潜水艦を駆る「ベーオウルフ」隊は舵をやられ、海流に流されてある入り江にたどり着く。
そこにいたのは謎の海生生物に襲われ…
白亜紀の恐竜と、第二次世界大戦後期における大艦巨砲主義の盛衰が重なる作品。
アウトバースト
南米の森林開発をめぐる物語。プレ・インカ時代の遺跡の呪いが人類を襲う。
珍しく、救いも何もなさそうなお話。
アリに寄生してアリの動きをコントロールする寄生生物からもたらされた発想が面白い作品です。
環礁にて
未来の宇宙調査隊のお話。とある惑星環礁を調べていると、謎の結晶を発見する。
それは、失われた惑星の古代文明を映し出すものだった…。
『星を継ぐもの』に通じる、失われた惑星の文明についてのお話。夢があります。
『滅びし獣たちの海 THE SEA OF FALLEN BEASTS 』の総評
骨太のテーマに、程よいSF要素、画力、構成力が絡み合った安定した作品集。
ロマンと教訓が得られる一冊。オススメです!
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