聖書の常識(山本七平):1980年

『聖書の常識(山本七平)』の概要

日本を代表する評論家である山本七平氏による著作です。

世界の思想界に強い影響を与え続けている聖書について、聖書を読んだことがない人にとっても概要と背景が理解できる、わかりやすくも濃い解説が詰まっています。

以下に備忘録として、内容をざっくり記載しておきます。

 

そもそも聖書とは

そもそも聖書とはなんでしょうか。

まず構成で分けてみると、大きく、旧約聖書と新約聖書に分けられます。

聖書はキリスト教のみの聖典だという誤解がありますが、『旧約聖書』はユダヤ教やイスラム教など、さまざまな宗教の聖典に数えられます。

ただし、「旧約」「新約」はキリスト教の概念なのであって、ユダヤ教徒にとっては旧約聖書イコール聖書です。

イスラム教では、コーラン以外に、「創世記」やモーセのくだりなどの旧約聖書の一部を聖典に数えているそうです。

 

旧約聖書の世界観

アジアの「円環」的な思想と対比して、旧約聖書の世界観の特徴は、「線の歴史」で描かれている点だそうです。

創世記から、人間のおこり、バビロン捕囚など、イスラエル中心の歴史がまっすぐに描かれます。

それゆえ、ユダヤ教では、世界の始まりからこれまでの歴史の全てが共有されています。

アジアの宗教、たとえば仏教の「輪廻転生」といった概念が無いため、同時に「前世」や「来世」もありません。

それゆえ、何か罪や不幸があったときに、「前世の行いが悪かったからだ」「来世はきっと幸せになる」といった考え方ができません。

旧約聖書の世界観では、歴史の中で起きた罪やその「応報」は歴史の中によって行われるべき、という思想になります。(ただし、ユダヤ教徒みんなそういう思想だ、というわけではありません。念のため)

 

契約と律法

西欧や中東の契約社会に通ずる、もしくは根本にあるものが旧約聖書にあります。

旧約聖書は天国や地獄を描く、いわゆる宗教書というより、文字通り「契約書」という意味合いが大きく、じじつ、神と人の契約書の体裁をとっています。

これは聖書のもとになった文章が作られた時代に先だって存在した、古代の成文法と構成が似ており、その点からも契約書として読むのが適しているといえるそうです。

 

これは私の考え方なのですが、「宗教や神話は、いち側面では、ヒトが持つ「なぜ?」に非科学的な方法で答えるための手段」であると思っています。

思うに、「なぜわれわれはかくも苦しい境遇にあるのか?」という人々に対する回答として、「神との契約を守っていないから」という答えを用意する手段として、聖書が成立したのではないかと思います。

 

新約聖書の成立

新約聖書は、イエス・キリストの弟子らが、イエスの生前の記録を伝える手紙、ひらたく言えば宣教の手段として作られました。

ゆえに、パウロらの「手紙」が含まれます。なにを聖典にするかは、後代の聖職者らによって決められたそうです。

 

イエスはガリラヤという地域の生まれで、ここは文化的には辺境であり、それゆえに宗教的実践が厳しく行われていたそうです。

当時のローマ総督らの資料を見ても、「ガリラヤの預言者が…」といった資料が多くあるとのこと。

こうした歴史的背景を踏まえると、イエスは、生前は「ガリラヤのカリスマ的な預言者のひとり」という認識であって、イエスをキリスト(救世主)たらしめたのは、むしろ弟子のパウロらの宣教活動によるものが大きい。

同時代に存在した数多の預言者たちとの決定的な差異は、イエス本人の存在に加え、優秀な宣教者達が存在したことにあったのでしょう。

 

『聖書の常識(山本七平) 』のまとめ

  • 聖書は旧約と新約に別れる
  • 旧約はユダヤ教やイスラム教にとっても聖典
  • 因果応報の思想を輪廻によって説明できない、線の歴史思想なので、過去への執念が強い
  • ラスタファリズムなど、ジャマイカ文化にも大きく影響を与えているので、ジャマイカ音楽が好きな方にもオススメ

聖書を読んだことがない人には入門用に、聖書を読んだことがある人はさらに理解を含めるために、いずれにも便利です。

なにより、これ一冊で様々な宗教に通ずる根本部分の概要を知れるのは、たいへんにお得です。

文句なしでオススメ!

 

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