僕は君たちに武器を配りたい(瀧本哲史)

概要

資本主義というゲームの仕組みを説くことで、

  • なぜ交換可能な存在になってはいけないのか
  • 交換可能な存在にならないためにどうすれば良いのか

を説いた本書。20歳前後のみなさまに是非読んでいただきたい良書です。

以下、引用とコメントです。

「本物の資本主義」の到来

護送船団では、最もスピードの遅い船にあわせて全体が航行する。同様に、日本政府は手厚く産業を保護する政策をとってきた。

事業の許認可や輸入品に対する厳しい規制を設けることで新規参入を妨げ、競争はあってもそれに敗れた大手企業からできるだけ落伍者を出さないよう、あらゆる分野で政府が産業をコントロールした。

日本が「もっとも成功した社会主義国」といわれるのも、この政府の産業に対する手厚いケアが大きな理由である。

これまでの規制に守られた「社会主義的な資本主義」から、世界中の人々と市場で競争を迫られる「むきだしの資本主義」「本物の資本主義」の社会へといやおうなく足を踏み出さねばならなくなったのが現在の日本なのである。

資本主義の成熟化が進み、熟練労働者が必要なくなれば、新自由主義といった思想とは関係なく、労働者は必然的に買い叩かれる存在となってしまうのである。

これからも資本主義は次々と世界中で進行していく。それは資本主義を支える根本的な原理が「より良いものが、より多く欲しい」「同じものなら、安いもののほうがいい」という、人間の普遍的な欲望に基づいているからである。

まったくなるほどと言うしかありません。

「本物の資本主義」で買い叩かれない存在になるために

では、どうすれば買い叩かれる交換可能な存在(コモディティ)ではなく、交換不可能な存在(スペシャリティ)になれるのでしょうか?

スペシャリティになるために必要なのは、これまでの枠組みの中で努力するのではなく、まず最初に資本主義の仕組みをよく理解して、どんな要素がコモディティとスペシャリティを分けるのか、それを熟知することだ。

自分が働いている業界について、どんな構造でビジネスが動いており、金とモノの流れがどうなっていて、キーパーソンが誰で、何が効率化を妨げているのか、徹底的に研究するのである。そうして自分が働く業界について表も裏も知り尽くすことが、自分の唯一性を高め、スペシャリティへの道を開いていく。そして常日ごろから意識して、業界のあらゆる動向に気を配ることで、「イノベーション(物事の革新)」を生み出すきっかけと出会うことができるのである。

イノベーター型の起業家を目指すのであれば、特定分野の専門家になるよりも、いろいろな専門技術を知ってその組み合わせを考えられる人間になることのほうが大切なのである。

しかしかといって、資格や勉強が目的化してはいけません。

本書で述べた「英語・IT・会計知識」の勉強というのは、あくまで「人に使われるための知識」であり、きつい言葉でいえば、「奴隷の学問」なのである。

資格やTOEICの点数で自分を差別化しようとする限り、コモディティ化した人材になることは避けられず、最終的には「安いことが売り」の人材になるしかないのだ。

人に使われるための知識ではなく、人を使う立場になるための知識が必要と説きます。

人を使う立場になるということは、経営の目線が必要だということで、私の言葉にすると、

  • 理想とする将来像、ビジョンを示せること
  • これまでの市場になかった新たな価値を生み出せること

ということだと思います。

そうしたことを可能にするための知識が、業界のスペシャリティとしての知識と、既存の慣行を打ち破る要素としての教養だという主張だと捉えました。

投資家的に生きるということ

人生の重要な決断をするときに覚えておくべきは「リスクは分散させなくてはならない」ということと、「リスクとリターンのバランスが良い道を選べ」という2点だ。

自分でリスクが見えて管理できる状態」とは、何らかの仮説に基づいて投資を行った後で、その仮説が間違っていると気づいたら、いつでも手仕舞いできる準備をしておく、ということである

サラリーマンとは、ジャンボジェットの乗客のように、リスクをとっていないのではなく、実はほかの人にリスクを預けっぱなしで管理されている存在なのである。つまり、自分でリスクを管理することができない状態にあるということなのだ。

「ブームとなってから投資すると、死ぬ」というのが投資の鉄則だ。

会社選びも同じだ。就職・転職希望者には、自分が就職を検討している会社が「高すぎる状態」になっていないか、よく考えてみることをお勧めしたい。

あなたが「この会社は将来必ず大きくなる」とトレンドを読んで入社したとしても、自分が一従業員として安い給料で雇われている限りは、意味がないということだ。「この会社は伸びる」という読みに自分をかけるのであれば、その会社に株主として参加するとか、利益と連動するボーナスをもらうなりして、業績連動型のポジションに身を置かなければ、リスクをとった意味がないのである。

コントロールできないリスクを取ることは、ギャンブルと変わらない。リスクは分散させよ。リスク・リターンを計算せよ。リターンを享受できる立場にいなければ投資の意味が無い。

こうした投資的な考え方は、目を開かれる思いでした。

また、逆に経営者側の立場で、労働者に所有権を渡すことのメリットも説かれます。

社員にストックオプションを渡すということは、自社の所有権の一部を渡かなすことにほかならない。しかしあえてそうすることで「私の利益に適う行動をとれば、あなたも儲けることができる」というメッセージを社員に伝えることができ、モチベーションを高めることが可能となるのだ。つまり株式会社では、そこに働く社員も、株主の代理人として活動したほうが結局は儲かるのである。

労働者と労働力を取引するのではなく、株主の立場で働くメンバーを増やすイメージですね。

実際にこうした手段を取ることは難しいかもしれませんが、明確なビジョンを追う少数精鋭組織を作る際には非常に有効な手段ではないかと思います。

まとめ

  • コモディティが買い叩かれる本物の資本主義の到来は避けられない
  • 人に使われる知識ではなく、新たな価値を生み出すための知識が必要
  • リスク・リターンを考えて、投資家的に生きよ
  • リスクをコントロールでき、かつリターンが自分に連動する位置にいなければ、ただのギャンブルと変わらない

 

以上はエッセンスのほんの一部。示唆に富んだ内容ですが、実践に移すにはかなりの覚悟が必要です。

「気軽に使えて、かつ効果的な特効薬になる知識が欲しい」といった方には意味のない本ですが、本腰入れて資本主義社会を生き抜こうという方には自身を持ってオススメしたい本です。

 

瀧本 哲史 講談社 2011-09-22
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