『会社はこれからどうなるのか 』の概要
日本を代表する経済学者である岩井克人氏による著作です。
取引の仕組みを明らかにすることで、資本主義の未来、とくに会社という概念の将来像が描かれています。
以下に備忘録として、内容をざっくり記載しておきます。(読み終えたの3週間前だから記憶違いがないか怖い)
資本主義における利益を生む仕組み
資本主義は交換によって利益を生む仕組み。もちろん単なる交換では利潤が生まれない。
ある国で100円で買えるモノが、ある国では10000円で売れることもある。
異なる価値体系の仲立ちをすることが資本主義における商業の根本である。
産業資本主義の時代
産業資本主義社会においては、
- 資本家が用意した生産手段に
- 安い労働力を投入することで
- 生産物と労働力の差異を利益に変えていた
こうした社会では、資本家は生産手段を寡占することで、定常的に利益を得られる。
ちなみに、この方式を国単位にしたのが共産主義にあたる。
ポスト産業資本主義の時代
産業資本主義による利益の源泉は、生産物と安い労働力の差異である。
ここで問題になるのが、安い労働力が枯渇した場合。日本の例を出せば、「金の卵」と呼ばれた安い労働力が枯渇した。
これまではコモディティ商品を扱っていても十分に利益をあげられたが、これからは商品自体の差別化によって利益を得るしかない。
モノ自体があれば良いのではなく、モノ自体にさまざまな付加価値をつけねばならない。
そして付加価値をつける際に重要なのが、商品価値を伝えるための情報技術である。
こうした、産業資本主義からポスト産業資本主義への変遷という背景によって、昨今の情報技術は必然的に進化を遂げた。
(このあたりのお話は、同じく岩井克人著の『ヴェニスの商人の資本論』に含まれる『広告の形而上学』というエッセイに詳しい。)
ポスト産業主義における会社
産業資本主義社会において、資本家の立場は、生産手段を買うための資金を提供する点で、圧倒的な価値があったが、金や資本家に対して、人材の価値が相対的に上昇していくのが、ポスト産業資本主義の特徴の一つである。
ポスト産業資本主義社会では、持続的に競合との差別化をすすめられなければ、利益を生み出せず、生き残れない。
そして、持続的な差別化を生み出すのは、クリエイティブな人材や、その人間関係などであって、簡単に金で買えるものではない。
よって、
- 生産手段を買うための金
- 金を提供する資本家(株主)
の権力は相対的に落ちている。
じじつ、ある広告クリエイティブ会社で、株主とスター人材とのそりが会わず、スター人材が抜けた。
そのためにこの会社は凋落したが、そのスター人材が新しく立ち上げた会社は大成功した。
広告という、他との差異を生み出して付加価値にする仕事で重要なのは、
- そのスター人材が持っていた創造性
- 業界のコネ、信頼関係
であり、生産手段や金の有無ではなかった。
この例からも、金や資本家に対して、人材の価値が相対的に上昇しているといえる。
ポスト産業主義における雇用形態
こうした背景から、会社の持続的な成長のためには、
- 業界や自社内の状況を把握し
- 人脈や信頼関係など、簡単に買えないものを大事にする
つまり、
- 長く勤務してもらえる仕組み
さらに言えば、金で動く人材は金で出て行くので、
- 金だけではなく、企業文化で人材を固定化すること
が求められる。
そうした観点では、
- (長時間労働のトレードオフとして)雇用を保証し
- 成果ではなく勤続年数で給与が決まる
といった日本型の雇用形態も評価できる点があるといえる。
『会社はこれからどうなるのか 』のまとめ
- 資本主義とは、異なる価値体系の仲立ちによって利益を搾取するものである
- 格安の労働力が手に入らなくなったポスト産業資本主義の社会では、利益は製品間の差別化によってしか生まれない
- 結果として、差異を生み出す創造性をもった人材の価値が高まった
今後の企業活動において大きな示唆が得られる一冊。オススメです!
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