失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (戸部良一)

「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」というビスマルクの言を体現したような本です。

日本軍が関わった近代戦史をひも解き、負けた原因を分析することで、勝つべくして勝つための考え方を知るのが目的の本です。

なんでもかんでもビジネスに関連付けるのは望むところではありませんが、どうしても「仕事でも一緒だなあ」と思ってしまいます。

以下、引用とコメントです。

本来、戦術の失敗は戦闘で補うことはできず、戦略の失敗は戦術で補うことはできない。とすれば、状況に合致した戦略オプションのなかから選択することが最も重要な課題になるはずである。ところが、陸軍に比べて柔軟だといわれた海軍の戦略発想も以外に固定的なものであった。

プロマネがプレイングしはじめるデスマーチが典型ですね。

組織のなかでは合理的な議論が通用しなかったし、状況を有利に打開するための豊富な選択肢もなかった。それゆえ、帝国陸軍の誇る白刃のもとに全軍突撃を敢行する戦術の墨守しかなされなかったのである。

なお日本軍を圧倒したソ連第一集団軍司令官ジューコフはスターリンの問いに対して、日本軍の下士官兵は頑強で勇敢であり、青年将校は狂信的な頑強さで戦うが、高級将校は無能である、と評価していた。

また関東軍の作戦演習では、まったく勝ち目のないような戦況になっても、日本軍のみが持つとされた精神力と統帥指揮能力の優越といった無形的戦力によって勝利を得るという、いわば神憑り的な指導で終わることがつねであった。

「統率訓練は外面の粉飾を事として内容充実せず、上下徒に巧言令色に流れて、実戦即応の準備を欠く、その戦力は支那軍にも劣るものあり」

また統帥上も中央と現地の意思疎通が円滑を欠き、意見が対立すると、つねに積極策を主張する幕僚が向こう意気荒く慎重論を押し切り、上司もこれを許したことが失敗の大きな原因であった。

精神論は必要だと思いますが、それが全てではありません。

精神論で押し切らなくて済むように、まずは合理的な議論で、状況を有利に打開するための選択肢を増やしていくことが重要なのだと思います。

相手がどのような行動に出るか、それに対してこちらが対応した行動がどのような帰結を双方にもたらすかを、確実に予測することはできないのである。このような不確実な状況下では、ゲーム参加プレーヤーは連続的な錯誤に直面することになる。

戦闘は組織としての戦闘部隊の主体的意思である作戦目的( 戦略) と、その遂行( 組織過程) の競い合いにほかならない。

戦場において不断の錯誤に直面する戦闘部隊は、どのようなコンティンジェンシープランを持っているかということ、ならびにその作戦遂行に際して当初の企図( 計画) と実際のパフォーマンスとのギャップをどこまで小さくすることができるかということによって、成否が分かれる。

作戦戦闘は錯誤の連続であり、より少なく誤りをおかしたほうにより好ましい帰結をもたらすといわれる。戦闘というゲームの参加プレーヤーは、次の時点で直面する状況を確信をもって予想することができない。

企業活動についても、抽象化すれば、目的と過程の2点しかありません。

現場で柔軟で効果的な判断を行うためにこそ、目的がはっきりしていることが重要なのでしょう。

ノモンハン事件は日本軍に近代戦の実態を余すところなく示したが、大兵力、大火力、大物量主義をとる敵に対して、日本軍はなすすべを知らず、敵情不明のまま用兵規模の測定を誤り、いたずらに後手に回って兵力逐次使用の誤りを繰り返した。情報機関の欠陥と過度の精神主義により、敵を知らず、己を知らず、大敵を侮っていたのである。

孫子の兵法を引くまでもありませんが、戦闘に勝つための正しい戦略を練るためには、正しい情報が必要です。

正しいアウトプットのためには、質量ともに十分なインプットをすることをこころがけたいです。

以上、こんな内容が気に入った方にはオススメです。

 

戸部 良一,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎 中央公論社 1991-08
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